服装雑感

男の先生は、たいていダークスーツ、白いカッターシャツに、地味な色合いのネクタイ、そして特筆すべきは白いスクールソックスをはいておられます。一体なぜダークスーツに白いソックスなのか理解に苦しむ所ですが、学校の先生は八割の確率で白いソックスです。
体育の先生は、男女とも日常的にトレーニングスーツをきておられます。靴下は百パーセント白のソックス。そして、なぜかトレーニングウエアはカッパーのブランドなのです。
どこの中学でも、体育の先生のトレーニングスーツはカッパーなので、ひょっとしたら教員割引で一番割引率が高いブランドなんじゃないかと、密かに疑っています。

女性の先生は、みなさん揃って、今の流行に逆らった服装をしておられます。
「今時どこで、そんなにいかり型風な肩パットの入った、金ボタン付のジャケットが買えるんだろう」と、思わず聞いてしまいそうになるようなものだったり、裾が細くなっているパンツだったりします。
なにより不思議なのは、お化粧です。極めて薄いお化粧か、もしくは口紅だけという方がほとんどです。私は、永らく主婦をしてきましたから、すっぴんで人前に出られるような据わった根性をもっておらず、一応、顔の造作の全てに手をかけてきます。

初めて私と会って、名前をしらない生徒は間違いなく、私のことを「あの化粧の濃い先生」と呼びます。言っておきますが、私なんかファンデーションを買ったら二年間は新しい物を買わなくても済むくらいの消費量です。口紅、ほほ紅、アイシャドーに至っては、三年前のものもまだまだ現役。
そんな私に向かって「化粧が濃い」というのですから、いかに他の先生方が薄い化粧をしておられるか、おして知るべし。

「化粧が濃い」といわれた場合の答えは決まっております。
「あんたたちに、私の素顔を見る勇気があるわけ?ギリシャ神話のメデューサって知ってる?私の素顔で石になる人が出たら困るだろうと思って化粧してきてあげたのに、その有り難味が判らんようでは、まだまだじゃのう」
こう言うと大概の生徒は黙りますが、しつこい生徒も中にはいます。
しつこい生徒の撃退方法は
「あんたのお母さんの素顔よりも、怖いと思うよ」です。

生徒を「愛の校則」に従わせている手前、新卒女性教師も、かなり無理をして、極度にファッショナブルでない方向にベクトルを向かせているのでしょうが、十年二十年とそういう環境に身を置いていると、感覚が麻痺してしまうのかも知れません。
で、二十五年前のスーツに、何のためらいもなく袖を通せてしまうのでしょう。