遅刻

遅刻って、不思議なもので、約束の時間に五分遅れると、いかにも「遅刻」という気がするじゃない?
必死の形相と、バタバタ走るその姿は、周囲三百メートルに向かって「私は、今まさに遅刻せんとすの状態なんじゃ〜」とアピールしていますよね。
そうやって走ってきて、ギリギリで間に合ったとしても、決して「よくぞがんばった」じゃなくて、「まあ、なんと慌しいことだ。」という評価を受けますよね。
ところが、二時間遅れてくると、なにか突発的な出来事が起きたんじゃないかと心配されたりします。



さて、中学生と「五分遅刻」と「ギリギリ駆け込みセーフ」は、切ってもきれない風物だと思っている読者のあなた。あなたは、古きよき日本しか知らない幸せな世代に生まれた方です。



今時の中学生は、学校構内では、決して走ったりしません。たとえ校門をくぐった時点で始業のチャイムがなったとしても、血相一つ変えません。シラーーーっとして、ポケットに手を突っ込んで、背中を丸めて、靴のかかとを踏んで、ズリッズリッズリッ・・・と何事もなかったのよう昇降口に向かいます。その様子は、ほとんど重役出勤です。


で、今時の中学では、遅刻してきた生徒を咎めたりしません。一昔前に、定刻になって校門を閉めたら、遅刻しそうになった女子生徒が慌てて校門に滑り込んだために、挟まれて死亡してしまった悲しい事件がありましたよね。そんな話は今では伝説です。先生も、すごい形相で走ってくる生徒に対してこそ、熱血の血がたぎるというもので、糠に釘みたいな、反応の無い生徒を相手にしていては、注意してやろうという気もなくなるんだと思います。


十三歳から重役出勤で、怖いものなしの三年間を過ごし、いずれ社会人となった時に、どうやって生きていくのか心配です。