素朴な疑問

中学二年生の国語で、前にも紹介しましたが「文化を伝えるチンパンジーという単元を勉強しています。本当によく出来た教材で、説明的文章の定石をすべて備えていて、うっかりすると、すんなり頭に入ってしまったような錯覚を覚えさせる文章です。
錯覚とは何事か?と思われたでしょうが、それについては、後ほどコメントします。



文章中、筆者は文化とは「コミュニティーのメンバーに共有され、非遺伝的な経路で世代を超えて引き継がれる知識や技術の総体」と定義づけています。



ある程度常識を蓄積している大人は、こういうちょっと回りくどい言い回しの文章を読んでもすぐに理解できますが、中学生だと、意外にも正確に理解できている人は少ないものです。大体、非遺伝的という言葉を理解していないのです。非遺伝的と同じ意味だと思う語は次のうちのどれでしょう?①先天的 ②個性的 ③後天的 ④特異的 という質問をしたら、案の定正解は十人程度でした。この文章の肝である「文化」が正しく定義されていないと、筆者の伝えたいことは伝わりません。



で、次のうち、筆者のいう「文化」の例として適切なものはどれでしょう
①高校生のお姉さんがルーズソックスをはいている
②日本人は数字の四と九を嫌う人が多い
③日本人は雨や雪に、独特な名前をつけてきた
・・・・
という文章を十個ほど書いて生徒に考えてもらいました。
上に上げた文章は、間違えた生徒が多かった例文です。

特に②に関しては、
「何でヨンとキュウが悪いの?」
「え゛ーーー、そんなこと聞いたことも無いよ」という反応で、私の方が少数派呼ばわりされてしまったほどです。
こういう文化って、意外に早く廃ってしまうのかもしれないと思いました。
で、そのうちに結婚式のご祝儀に四(死)万円包んだり、入院患者に櫛(苦死)を贈ったりするようになる日も遠くないかも。



さて、先ほど、すんなり理解したと錯覚してしまう と書きましたが、実は私には、ちょっと理解できない箇所があるのです。

筆者はアフリカで、石のハンマーを使うチンパンジーのコミュニティーを観察していて、ある事実に気づきます。コミュニティーごとに、ある決まった植物の種の殻しか割らないということです。
ABCD四つのコミュニティーのうち一つはまったく石を使って種を割るという行為をしない。一つはアブラヤシの種だけ割る。
一つはクーラの種とパンダの種を割る。
一つはアブラヤシとパンダだけ割る。というものです。

で、ある実験をします。Aの森には生えていないクーラの種を置いておくと、どういう反応を示すかという実験です。すると一匹のメスチンパンジーだけが何のためらいも無くクーラを割ったのです。つまりメスチンパンジーは、クーラの種を食べる習慣のあったコミュニティーから嫁入りしてきたと考えられます。
そのうちに、メスチンパンジーを真似して、子供のチンパンジーもクーラの実を割って食べ始めた。これこそが、文化が次の世代に継承された瞬間だというのです。

私の疑問は、じゃあ何でまったく石のハンマーを使わないコミュニティーが存在するんだ?ということ。
もしもハンマーの使い方を知っているメスチンパンジーが、ハンマーを使わないコミュニティーに嫁に行ったら、絶対的に有利なわけじゃん。他の誰も種を食べないんだから、独占できるでしょ?そんな得なことを他の子供のチンパンジーが真似しないはずないじゃない?それとも、この独占状態を保持するために、こっそり食べているのだろうか?もしそうなら、それはそれですごいことだけど。



とりあえず、生徒からは何の質問も出てこないので、敢えて指摘はしておりませんが、個人的に、そこんところはどうなっているのかが知りたいです。知っている方、教えてください。