塗る付けまつげ

うわさの女の子で、その悪名は職員室中に轟いていますが、なかなか姿を見る機会はないという女の子がいます。
実は、私は何回か「チラッと」姿を見かけたんだけど、彼女の顔の印象は漠としていて捉えどころがないのです。
その理由の一番の原因は、なんと言っても「チラッと」とか見かけないことです。職員室の窓から、とか廊下ですれ違いざまに見かけるという程度だからです。
その二は、前髪が顔の半分以上を隠しているためです。
その三は、とにかく化粧が濃い。
このような条件が重なって、彼女の顔は、ずっと謎の状態が続いていました。



つい先日のことです。どうやら久々に出校してきたらしく、職員室の中でザワザワと先生たちの慌ただしい動きがありました。
「たかが一人の不良娘が現れたくらいで、大袈裟ねぇ」と思うでしょうが、彼女の出現というのは、職員室に波紋を投げかけるくらいのインパクトは十分にあるのです。
まずは、そのいでたち。
これ以上は短く出来ないというスカート丈。
取れかけのパーマに何の手も加えていない、ふしだら感を百倍アップさせるロングヘアー。そしてデパートのコスメ販売員のオネエさんだって、今時そんなに塗ってないよね、というような厚化粧。
顔が見えなくても、二百メートル先から、「あの子だ」とわかるオーラが出ています。



担当学年の先生で、授業に空きのある先生は、まず一番に飛び出していきます。続いて生徒指導の先生。校長先生、教頭先生、教務・校務と四役の先生も「お出迎え」をします。私が初めて、この様子を見たとき、 「愛知県の教育委員会の視察団でも来たのかしらん?」と思いました。社長のお出迎えか?



彼女の場合、上級生の女子生徒(彼女も不登校なんだけど)と犬猿の仲らしく、ニアミスさせないように先生が細心の注意を払っているのでした。たまたまこの日は、上級生が出てきていた日らしく、常に先生が見張り役として、彼女に張り付いていました。



さて、私は幸運にも授業があったので、ラッキーと思っておりましたが、たまたまトイレに立ったときに廊下で、問題の彼女の一団とすれ違ってしまいました。彼女と、担当学年の先生二人と、生徒指導の先生と、校長先生です。彼女が、校長先生に向かって罵声を浴びせかけておりました。
「なんで、お前(校長先生)がこんなところにいんだよ゛ーーー」みたいなことを言って「ウゼー」だの「キモイ」だの「むかつく」だの、少ない語彙を駆使して悪口雑言の限りを尽くしていました。私は、あまりのことにしばらく立ち止まって凝視してしまいました。初めて間近で見た彼女の顔でした。化粧は濃いとは思っていましたが、まつげに関しては圧巻!
「塗る付けまつげ」の重ね塗りをしているのでしょうが。まつげがダマダマに固まって、長さとボリュームがアップというより、誤ってコールタールがまぶたの上に落ちてきた?状態。マスカラを一本使い切ったかもしれないような迫力の目力(めぢから)でした。



NHK教育「おしゃれ工房」で季節ごとにメイクアップ講座をやっているんだけど、彼女をモデルとして登場させたら、講師の藤原さんは一体どんな反応するかなー。