変身中

去年一年間は、問題児ばかりが集まっているクラスを一つ担当していたので、そのクラスに行くときは、授業の前に心を落ち着けてから教室に向かうくらいの心構えが必要でした。
一時間ずっと放送禁止用語をがなり続けていた男の子、その子に大声で相槌を打つ女の子、携帯がピーピー鳴る子、消しゴムをカッターナイフで削り続けてあたりに飛ばしまくる子、机間巡視をしている間に、前の黒板を黄色いチョークで塗りつぶす子、一年間後ろ向きに座っていた子。
こういうクラス編成でしたので、はっきり言って五月の終わりころにはクラス崩壊状態でした。




今年は、先生方が知恵を絞って、クラスに均一に問題児を振り分けたために、少数派になった問題児たちは静かになりました。
問題児を一年間かけて育ててきた先生方のご尽力もありますが、実はクラスの平和に一番貢献しているのは、他の普通の生徒たちなんじゃないかなと最近思っています。彼らは、一年間かけて、小学生を卒業したばかりのジャリンコから、中学生へと進化したのです。去年の一年生を引き続き担当しているので、その差をすごく実感しています。




周りが成長して、 「ひょっとして自分は異端児?」と気が付いた問題児君には、二つのチョイスがあります。このままではクラスで孤立してしまう!と気づくか、不登校になるか。
実は、あるクラスに、典型的な問題児君がふたりいるんだけど、典型的な二つの道を歩んでいます。一人は不登校、もう一人は五月半ばの今、自分が孤立しそうなことに気づいて変わろうとしているというケースです。




変身中の彼は、「問題児でない自分」にすごく戸惑っていると思います。自分が変わると周りの扱いも変わるんだ!ということに気づき始めたようです。午後の授業になるときには机に突っ伏して寝ていることもありますが、去年、話に聞いていたような授業妨害をしたり、回りの生徒に危害を及ぼしたりするという暴力行為はありません。居眠りした後には授業の後で、親密気に顔を寄せ合って、
「今日はどうしちゃったの? いつもの○○君らしくなかったねぇ。 昨日、ゲームクリアでもして徹夜でもしちゃった?」
「別にぃ」
「疲れちゃった? 午前中に何か疲れることでもしたの?」
「体育があったしさー」
「ちょっとー、体育は気合入れて、国語で抜くか?」
みたいな会話すら成立します。




ベテランの女性の教師が、こんなことを言っていました。
「問題児君と、手っ取り早くよい関係を築くための小道具があります。それは糸と針です。名札やボタンを付け直してやったり、学生服の裾のほつれなどを直してやってください」
あいにく、手芸が得意でない私としては、この手は使えませんが、要するにかあちゃん作戦」でいけというということだと解釈しました。だから彼に接するときには、先生ではなくて「かあちゃん」のように接しているつもりです。




去年、いっしょに組ませていただいたK先生は、問題児の扱いに関しては天下一品の先生でした。またK先生の話は次の機会にします。