K先生

去年の二年生は、去年の一年生とは別の意味で問題児が多い学年でした。
深い事情は分かりませんが、とにかく家庭環境が劣悪かつ複雑なんです。
集金が遅れるとか、教材費が払えないとか、そういう個人情報については非常勤講師である私にはまったく知る由もありませんが、外見を見て彼らの家庭環境は押して知るべしという感じです。



たとえば学生服のズボンの裾がほつれるとかいう表現ではなくて、裾が裂けてびりびりになっているのです。どうやったらあなにふうにビリビリになるのか聞いてみないと分かりませんが、とにかくビリビリ。スリッパのソールが無くて、ペラペラになっています。学生服の袖口から10cmくらいシャツの袖が出ていて、そのシャツも薄汚れています。学生服の上着の裾もマツリがとれてベローンと垂れています。
上から下まで、原型を留めていないのは一体なぜ?ひょっとしたら一種のファッションなのかも・・・・



うちの息子の学生服なんか、洗濯機でガラガラ洗っていても一度もほつれたことなんかありません。ボタンが取れたこともありません。朝六時半に家を出て、夜の七時半に帰宅。そして上着を脱ぐ間も惜しんでズボンを履いたまま夕食を食べるという生活で、なんと一日の半分以上は制服を着ているのに、ズボンのひざが抜けることも無ければ、裾が破れることもありません。ちなみに学生服は一着しか持っておりません。
ともかく、学生服ってなんて丈夫に出来ているんだろうと思っていました。



さて、そんな彼らの世話を引き受けていたのが、旧二年生の先生方でした。
彼らはグループ登校してきます。大抵三時間目の途中に徒党を組んでゾロゾロ現れます。どうやら学校の前の空き地で待ち合わせをしているみたいです。
と、すかさず、空き時間のある二年生の先生が職員室前まで出てお出迎えをし、彼らを昇降口までご案内します。そこですんなり教室にはいることはなくて、昇降口でグズグスする彼らのお話し相手をして、三時間目の終了とともに彼らを教室に誘導します。



二年生の先生方の団結力は、他の学年を圧倒していて、完璧なまでの連携プレーでした。
その中で、とくに問題児君たちに絶大な人気と信頼を得ていたのがK先生。年は五十手前くらいのベテランで、国語担当です。放課時間になると必ず問題児グループの相手をして、空き時間でもあれば、問題児君の話し相手をつとめ、毎日毎日電話でモーニングコールをして今日は何時に学校に来るのかと聞き、昼ごはんのメニューを伝えるなど、そりゃあ手厚くケアしていました。



廊下ですれ違うと、ほとんどカルガモの親子状態で、K先生の後ろに四〜五人の問題児君が連なっていて微笑ましい光景です。もっとも彼らは例の外見で、おまけにロン毛で、発育不良(中二の男子なのに150センチあるかないか)で、ポケットに手を突っ込んで、肩で風を切るみたいな不良歩きをして、この世の不幸を一身に背負っているかのような暗い眼をしているのでカルガモの赤ちゃんというイメージではないかもしれませんが、少なくともおとなしく、かあちゃんの後について歩いていく様子は微笑ましいものです。




以前、幼児虐待で子供を死亡させたというニュース流れたとき、K先生が、
「あの子達の親が、ここまであの子達を死なせずに育ててきただけでも、大変なことだもんね」とおっしゃっていました。よほどの修羅場を生きてきた、という意味なのでしょう。
はぁー、そういう気持ちになって彼らと接しておられるんだなぁ。K先生と出会えた彼らは、本当に運がよかったと思います。
蛇足ですが、K先生はものすごく説法が上手です。将来、新興宗教の教祖にでもなれそうなんです。