案の定

作文は、予想通り、報告書か日記のようなものばかりが出てきました。
作文指導のときに、
「例えば、野外学習で作文を書こうという人の場合、
集合時間に学校に着いたら、バスが来ていて、それに乗って、目的地につい居て、テントに入って、クラスで集まって、晩御飯の準備をして、またテントの戻って寝た。二日目は・・・。三日目は・・・、という作文の評価はCです。」とあれほど言ったにもかかわらず、
「職業体験の初日は生鮮食料品売り場で仕事をした。二日目は精肉部門で仕事をした。三日目は魚介類を扱う部門で仕事をした・・・・」という手の作文が多いこと!




とっくに提出期限を過ぎているのに、何も書けていないという生徒は全体の二割ほどもいました。仕方が無いので、個別指導で、少なくとも構想表は一緒になって作ってやりました。
構想表づくりはほとんど誘導尋問です。
「○○くんは、職業体験を題材にしたいのね。はいはい。で、何という職場だったの?へえ、それは何をしている会社なのかな?ふーん、スーパーマーケット。四日間で一番記憶に残ったことって何だった? えっ、なになに。仕事がうまくいったこと? どんなふうにうまくいったの? きちんと棚に並べたとほめられた。うーん、それだけだと作文には書きづらいなあ。もっと、正直に思い出してごらん。・・・弁当?へえ、弁当を一人ぼっちで食べたことが寂しかったのね。・・・いいかも。それでいってみようか」




というわけで、○○君は、職場体験を題材にして、友達のことを思い出したという作文を書くことになりました。
職場体験では、一週間も学校の授業がないというだけでも嬉しくて心待ちにしていた。
実際に職場に行ってみると、食材を袋詰めにするという単純な作業をしていて、つまんないなあ。早く休憩時間にならないかなぁ。とそればかり思っていたのに、いざ休憩時間にらなったら、ひとりで控え室の隅っこで弁当を食べることになって、うら寂しい気持ちになった。あれほど待っていた昼の休憩時間だったのに、仕事をしているときよりも、もっと気持ちが落ち込んだ。(かれは勉強の大嫌いな生徒の代表格のような人です)これなら、学校で勉強していたほうがよかったと思えるほどだった。勉強はもちろん苦痛だが、学校には友達がいて、適当にサボって、おしゃべりして過ごせる。ところが、仕事となると、言われたことを、ただひたすらにやり続けてサボることもできないし、休憩時間も寂しく過ごした。自分にとって、友達がいないという環境は厳しいものだったと実感した。
・ ・・・こんな作文になる予定です。 
来週の月曜日まで待つという約束なんだけど、彼が約束どおり仕上げてくるかどうかは五分五分というところです。




私の誘導尋問で構想表だけは皆作ってあげようとしたのですが、二〜三人の生徒は、感動したり、記憶に残ったりした出来事が何も無いというのです。これにはさすがに私もお手上げ状態です。
「大げさに考えなくても、ちょっとしたことで、嬉しかったとか、悔しかったとか、悲しかったとか、ドキドキしたとか、不満だったこととか、そういう気持ちが心に残っていること、何かないの?」という問いに、
「何も無かった」と答えるのです。

「お前は一体、いままでどういうふうに生きてきたんじゃいっっ」と怒鳴りそうになりましたが、ぐっとこらえました。無感動っていうのは、不平や不満もないのかねえ。