村上和雄先生講演会 その③

先生が研究しておられた対象の一つに、高血圧を引き起こす、レニンという名前の酵素です。先生は、世界で初めて、ヒトレニンのDNAをすべて解読した科学者だったのです。


科学の世界の発見レースは、ものすっごく熾烈で、オリンピックのように、金銀銅があるわけじゃなく、金、つまり世界で一番でなければ、意味がない。
だから、時間との戦いでもあるようです。


詳しい内容はうろ覚えなのですが、世界中の科学者が、高血圧を引き起こす物質がどうやらレニンという物質で、それが脳の中に潜んでいるらしいということに目をつけて、研究を進めました。
しかし、本当に超微量の物質なので、先生は、牛の脳下垂体を何万頭も集めてきて、毎日毎日、来る日も来る日も、冷凍した脳下垂体の皮をめくり続けました。そして、超・超微量の牛のレニン抽出に成功します。
ところが、ちょうど、そのころ、フランスのパストゥール研究所で、ヒトレニンの抽出に成功したというニュースが流れ、研究室は一気に意気消沈します。先生は、そこで敵地視察にでかけ、様子を探ると、
「まあ、あなたの研究室に勝ち目はありませんよ。この際、研究対象をヒトじゃなくて、サルのレニンに変えたらどうですか?」といわれました。
ヒトレニンでは世界一になれなくても、サルレニンの遺伝子解読なら世界一になれる。
でも、ヒトとサルでは、有り難味が全然違います。一生懸命サルの高血圧を治しても、あまり世の中の役には立たないかも。



そんな中で、ハーバードでもDNA解読が進み、もう逆転は有り得ないという時に、サムシング・グレートのお引き合わせにより、奇跡が起こります。



ドイツのとあるビアガーデンで、すごい偶然にも、京都大学の世界的に有名なDNA研究者の某教授に遭遇します。
よりによって、ドイツの片田舎のビアガーデンで、よりによって世界的に有名な日本の科学者に会うとは。しかも、アルコールが適度に入っていてとてもいい状態になっていて、
「それは面白い。是非とも手伝わせてください」
と言ってもらえるとは。
こうして、サムシング・グレイトのお導きで、行き詰まっていたヒトレニンのDNA暗号解読レース参加に名乗りを上げることとなりました。



今では、先生は、レニンを大量に作り出してくれた「大腸菌」のことを、恐れ多くも呼び捨てにすることはできず大腸菌様」とよぶことにしているそうですよ。