困ったちゃんの付け爪

この間、三年生全体の中で、一・二を争う「こまったちゃん」の爪をみて驚いてしまいました。
なんと、長さ三センチの黒い付け爪を十指全てに施していのです。

彼女は、家庭内が複雑で、どちらかというと、先生方も
「家庭のごたごたが収まらない限り、彼女のあの言動・外見は収まらない」
と、いうふうに考えておられるようです。
どれくらい複雑な家庭なのかは知りませんが、やはり両親の関係が複雑であることは間違いありません。


黒の付け爪をしてきたのは、この間ですが、実は眉毛は二年生の三学期からありません。
コンタクトは、黒のカラーコンタクトをつけていると思います。
初めて見たときは、彩光が真っ黒で、一見すると瞳孔が全開しているように見え、とてもびっくりしました。
たいていは保健室にしけこんでいますが、保健室が閉まっているようにときだけ教室に戻ります。
ずっと縦×横が15センチ×20センチ大の鏡をみつめて、髪をとかしたりグロスを塗ったりマスカラをつけたり、けっこう忙しくして一時間を過ごしています。



当初は
「○○さん、授業中の身づくろいはやめてくださいね。他の人も気が散りますから」
と注意したら、いきなりプイっと教室を抜けだしてしまいました。大急ぎで職員室に電話したことがあります。
「すみません。3年×組の▽□さんが、教室を出ていきました。多分保健室に行ったと思います」
「そうですか。あれ、今日は保健室は閉まっているはずなんだけど。あっ、いいです。こちらで捜します」
そのときに気がつきました。
「この子が今教室にいるってことは、保健室が閉まっているんだ」



居場所が無いっていうのは、勉強ができないというのとは別次元で辛いこと。
唯一の居場所の保健室に入れないときは、教室へ戻るしかありません。でも、他の生徒は受験生としての自覚が出始め、去年までのように、自分の私語に付き合ってくれるような生徒は周りにもいません。もちろん勉強にはついていけません。孤独な一時間を、
「私は孤独じゃないし暇じゃない。化粧したり、髪をすいたり、爪を塗ったり、いろいろやることがあって忙しいわ」
という演技でもしていなければ、惨めすぎます。