座敷童

まだ日も高い午後四時ごろのこと。
夫とナンチャッテが出先から車で帰宅すると、お隣さんの家の門から二歳くらいの女の子がひょこひょこ階段を下りてくるのが見えました。
「お隣さんちの子?」
という夫に、
「御嬢さんは三人とも未婚だし・・・」
という話をしているうちに、件の女の子は、道路の真ん中あたりでうろうろし始めました。
見回しても、この子の父兄・ジジババらしき人の姿もありません。
「危ないから、おうちに帰ろうかね〜」
と声をかけると、にっこりして、なんと、ナンチャッテの家に向かってヨチヨチ歩き出して、我が家の階段方面に向かってくるではありませんか。


ナンチャッテは、ひとまず、その子の手を引いて、向かいの道路際の空き地へと誘導。
「おうちはどこかな?」
との質問に、毎回違う方向を指さす女の子。
その子は、初めて出会ったナンチャッテにすっかり心を許して、ナンチャッテの手を、がっしり握って離しません。
上は緑のTシャツで下は紙おむつという超カジュアルな服装からしても、親の知らない間に勝手に家から出てきたに違いないと推測できます。
とりあえず、保護者に手渡さないことには、心配で仕方がありませんよ。
だって、いつ道路にひょろひょろと飛び出しいくかもしれませんから。


しばらく、空き地でその子の相手をしていると、アパートの窓がガラリと開いて、
「あ〜、すみません」
と、金髪に豹柄のキャミとフレアパンツ姿の、見るからに「若いっ」というお母さんが顔を出しました。
「うとうとしている間に、家から出ちゃったみたいで・・・」
という母の出現に、
「よかったね〜、ママが見つかったよ」
と、女の子の手を放そうとすると、
「いやっ」
といって、ぎゅっとナンチャッテの手を握る女の子は、ひょっとしたら家で、かなり蔑にされているんじやなかろうか・・・・と、実は、ふと不安にかられたナンチャッテです。


とりあえず、母親に手渡せて安心はしたものの、ほんのちょっぴり不吉な予感も・・・・
その女の子がとても可愛らしかったのと、髪型が肩までのおかっぱ頭だったのと、とても儚げな様子だったことから、「座敷童」という言葉が自然に頭に浮かんでしまったのでした。
その夜、たまたまニュースで豊橋あたりで父親が五歳の息子を餓死させて、8年間も放置していたというニュースが流れたのでした。まさかとは思いますが、その子がちゃんと、養育されているかどうか、
次に出会った時には、注意してみてみようと密かに心に決めています。