七時二十分出発、九時ホテル着

さて、ツアーの一日は朝六時のモーニングコールから始まります。
六時四十五分に、ホテルの部屋の前にスーツケースを出して、そのまま旅行客はホテルの朝食を食べに食堂に集まります。
ほとんどの場合は、七時半にロビーに集合でしたが、ナポリのホテルでは七時十五分出発・・・つまり一度もホテルの部屋の戻ることなくロビーに集合することになっていました。
そして、そういうタイトなスケジュールの時に限って、往々にして切羽詰まった事件が起きるものです。

まず、普段はほとんど、他の団体客と朝食の時間帯が重なることはなかったのに、ここではレストランが大渋滞していました。
出遅れてしまった人は、かなり時間のロスがあったと思います。

食後に自分の部屋の戻れない以上は、みなさんロビーのトイレを利用していましたが、なんと、そのトイレのカギが開かなくなってしまって大騒動が起きていました。閉じ込められちゃったのは高校一年生の女の子で、お母さんとおばあちゃんがトイレの前でおろおろしていて、大変な騒ぎでした。

そして、極めつけが、ばたばたとバスに乗り込んで、出発することになったその時に、
「うちのママがいないんだけど・・・・」
とのことで、添乗員さんは傍目にも真っ青になるくらいに慌てておりました。
この日は、朝一番にナポリからカプリ島へ渡る船に乗るという日程でした。8時05分発の船に乗り遅れると、その日の日程はほとんどカバーできないくらいの超ばっちんぱっつんの旅程だったのです。


その方は、どうやらトイレに入れそびれてしまったのと、エレベーターが止まらなかったことが重なったようです。

時間が無い時に限って、必ずといっていいほど、何かが起きるものです。

バケーションシーズンで、奇跡的に道路の渋滞がなくてスムーズに流れたおかげで、なんとか船には間に合いましたが、はっきりいって、この日の朝に、27人全員が感じた緊迫感はなかなかのものでした。
全員が船に乗り込んだ時には、みんな心の底からこの幸いに感謝していました。

残念ながら、カプリ島で一番人気の青の洞窟は、波が高いとのことで小舟を出してもらえませんでした。素人目には、「この穏やかな海の、どこが波が高いのよ?」と突っ込みたくなるような凪の海でしたが、結局この日は一艘も出発しなかったそうです。
このレア感が一層青の洞窟の神秘性を高めているのかもしれません。