親ばかで恐縮ですが、テルちゃんの可愛らしさは日々進化していて、毎日少しずつ変わっていくのが大変興味深いです。
テルちゃんは、もう今となっては家じゅうのすべての引き戸・ドアをあけて自由に行き来することができています。
面白いのは、普段は居間のドアを勝手に開けて出入りしているくせに、自分が廊下にいて、ナンチャッテ(または夫)が居間にいるような場合は、絶対に自分ではドアを開けようとはしません。
ドアの前で、いかにも何もできない無力な子猫を装い、か弱げな鳴き声を立てて、中の人を呼びつけます。
消え入りそうな声で「にゃっ、にゃ、にゃ」と短く声を立てます。うっかりしていると聞きもらしてしまうそうな、儚げな音量と音程です。
人間の言葉でいうと、
「まあ、困りましたわ。ワタクシ、ドアを開けることができませんことよ。どうしましょう」
的なイメージです。
この声にあらがうことのできる人間なんかいるのでしょうか。
レディーを助けるナイトのように、何をおいてもドアをお開けして、恭しくレディーをご案内することになります。
すっかりレディーの物腰を身に着けたテルちゃんは、ナイトのエスコートを至極当然のこととして、軽く一瞥をくれると、急ぐでもなく、かといって決してだらだらしているわけでもなく、悠然と文字通りのキャットウォークで居間に入ってきます。
誰に教えられたわけでもない、この天性の貴婦人ぶりは、恐らく犬にはないんじゃないでしょうか。


一方で、テルちゃんには、猫の狩猟本能が残っていて、例えば万歩計みたいな小物や、鉛筆・消しゴムのような文房具を口にくわえていろんな所へ運んでいきます。一週間ほど夫は自分の万歩計を探していましたが、結局はテルちゃんが運んで行ったらしく、とんでもない場所から出てきたことがありました。二階の夫の部屋の机の上にあるはずのものが、階段の下の隙間から出てきたのです。
人のこぶし大の大きさなら、簡単に咥えていきますから、小物の管理は意識して引き出しの中や戸棚にしまわないといけません。
そんなときのテルちゃんは、瞳にけっこう獰猛な光をたたえていて、ハンターを彷彿とさせます。


しばしば犬が、ご主人とキャッチボールで遊ぶ姿を目にしますが、実は、人とのキャッチボール(実際にはキャッチマウスですが)は、猫も大好き。
退屈すると、テルちゃんは、ハツカネズミの玩具を口にくわえてきて、ナンチャッテの目の前にポトっと置きます。そして例の「ニャっにゃ、にゃ」・・・翻訳すると・・・「ワタクシ、暇を持て余していますのよ、お相手願いたいものだわ」と、アピールします。
その声がまた押し付け感がないばかりか、ライン川のセイレーンの声もかくありなんと思わせる、けっして抗うことができない魔力が潜んでいるのです。
「レディーのお相手ができるのは、私めの喜びでございます」
と、ついついキャットマウスのお相手をしてしまうのです。
自己中の化身であり、権化であり、わがままな姫であるテルちゃんは、相変わらず夜中に一度は、ナンチャッテの顔をざらざらの舌で舐めまわすという謎の儀式は、未だ途切れることなく続いています。

これだけは、やめてほしいと願っているのですが。