ハンデ

これは、前述の先生とは違う人から聞いた話です。Sさんのご子息も東大在学中でした。
Sさんは、別の意味でとても興味深い話をしてくれました。



息子さんが一番よく勉強した時期は、いつだったか聞いたところ、意外や意外、中学受験の時だったとのこと。
「本当に本当ですか?」
と、聞くと、中学・高校時代は部活動に専念していて、全然勉強できるような環境にいなかったというのです。



この話をきいたのは、私たちがアメリカにいて、息子Aがまだ小学校三年生で息子Bはキンダーにいたくらいのときで、まだわが子が中学受験をすることになるなんて考えてもいませんでした。
だから、
「へえ、先んずれば何とかと言うとおり、成功する人は随分前から準備するんだなあ。でも、子どもも可哀想なものよねえ。遊びたい盛りに大学受験よりもたいへんな勉強なんかさせられちゃってさぁ。あ゛〜ぁ、大変な世の中なんだねぇ」
と、同情的に聞いておりました。



数年後、いざ自分たちが日本に帰国して、現実の世の中を見たとき、息子には、すごく大きなハンデがあることに気づいたのです。
何を隠そう、息子Aは超が三つくらい並ぶほどの運動音痴で、図画工作は超が二つ並ぶ不器用さ、音楽にも超が付く音痴だということに気がつくのです。
アメリカ(カリフォルニア州)では、こういう実技教科は、予算がつかなければ、その年の美術・体育・音楽の授業は行われない、という扱いをされています。
家庭科にいたっては、母親がボランティアで料理を教えるというものでした。ちなみに、私もクッキング・ティーチャーとして、小学生に料理を教えていました。
成績にも点数的な反映はされません。
努力(effort)という観点で評価されるものなのです。
だから、すごく走るのが遅くても「がんばった」という評価がつくこともあるのです。



本の学校の評価は違いますよね。
こんな息子が公立の中学に進学したら、入れる学校のランクが3つは下がること間違いなし。
そんな現実に気づいて、慌てて中学受験を考えたのです。
まさか自分の息子が「可哀想なもんよねえ」のお受験をする羽目になろうとは、夢にも思わなかったのでした。