恒川光太郎氏

私は中学生の生徒に、私の趣味で選んだ「読んでほしい名作」というのを、事あるごとに紹介しています。
例えば、魯迅の故郷を読んでいる時には、パール・バックの「大地」を薦めたり、ユン・チアンの「ワイルドスワン」を薦めたりという具合です。同一作者の他作品というより、その時代背景をより深く理解したり、別角度から描かれたりしている作品を紹介しています。
ちなみに、パール・バックの「大地」は私の中では五本の指に入る名作です。


イマドキの中学生は、読書よりももっと手っ取り早くて楽しい趣味を沢山持っているので、なかなか読書自体に興味を持ってくれません。
読書が好きという生徒でも、不朽の名作といわれるような、埃を被った分厚い本よりも、もっと刺激的で、話題性のある本が溢れているので、わざわざ、名作を読もうという気にはならないのでしょう。


私が中学の頃は、ヤングアダルト向けのベストセラーズなんて、そうそうはありませんでしたから、知らず知らずのうちに、「名作」を読むことになったのかも知れません。


さて、私の受け持ちの生徒の中に、ずば抜けて精神年齢の高い生徒がいます。(もちろん成績も優秀です・・・・・)
彼女の作文は、文章の組み立てがとても緻密で、中学生がほんの三〜四時間で仕上げた作品とは思えません。
以前、授業で、ある作品を読んであらすじを書こう、という内容の授業をしましたが、彼女の「あらすじ」を読んだ後、私が書いたあらすじは、とても模範解答としてみんなの前に出す勇気がなくなり、急遽プリントをすりなおして、「生徒の模範あらすじ」として配布したことがあります。



そんな彼女が、時々、例の自主ノートに、ある作家の作品を書き写してきてくれます。短編ですが、さすがに全てを書き写せるほどは短くありません。だから、いつも話の佳境にはいる手前くらいで書き写しが終わっています。
私としては、この後、どんな展開になったのか知りたくてたまらないのに、毎回毎回結末が分からないまま終わっているのです。
ジャンルとしてはホラーの要素を含みつつ、民間伝承の要素もありつつ、泉鏡花っぽくて、新しい感覚・・・・
何が何でも続きが読みたくなるお話です。


授業後、彼女に尋ねたら、作詩は恒川光太郎氏だと教えてくれました。
よかったら、皆様も一度読んでみて下さい。
こんな面白い本が巷に溢れているんですから、なかなか「名作」まで手が回らないよな〜、と思った次第です。