Hさんのこと

教室にはいりたくないという三年生の女子生徒Hさんを、実は二年生の時から見ていました。二年続けて国語の担当をしているからです。でも、Hさんの姿を教室でみかけることはあまりありません。
学校に来ていないか、保健室にしけ込んでいるからです。



三年生のこの時期になって、担任や養護教諭や親や本人がどういう話し合いをしたのかは知りませんが、以前のように保健室に入り浸ることが許されなくなったようです。
今日は、私の授業の最中に、先生が連れてきて教室に入れさせようとしていましたが、五分くらい廊下で押し問答していて、結局教室には入ってきませんでした。



授業が終わって職員室に戻る途中の保健室の前でHさんを見かけたので、
「さっき、待っていたけど、入ってこんかったねぇ。」
と声をかけました。
「だって入りづらいもん」と、Hさん。
「入りづらいもなにも・・・。三年生のこの時期には、みんな必死で、一人や二人、遅れてこようが早引きしようが、気にする余裕のある人なんかいないよ」と私。
「みんなが変なことを言うから」
「大丈夫。変なことをいえるような余裕もないから」
というような会話を交わしましたが、結局「みんなが色々いうから」というようなことを繰り返すばかりです。
もう完全に「私はクラスのみんなから、除け者にされている」という感情しかないみたいです。いままでにどんないきさつがあったのか分からないし、どんな家庭で、親子の関係もわからないのですが、非常にネガティブなのは間違いありません。



保健室には入れてもらえず、教室にも戻れず、職員室にも入れない。
それで、彼女は保健室前の北向きの廊下の脇でハンドタオルで口元を覆い、前髪をすだれのように垂らして顔を隠し、チョコンと座り込んでいます。
な〜んか、哀れなんだよね。
昼放課で、生徒の行き来が激しく、ワイワイガヤガヤしている廊下で、危うく蹴飛ばしそうになったのが、彼女でした。
「Hさん、一緒についていってしばらく隣に居てあげよっか?こんな所で座っていると、寒いし、第一、かっこよくないじゃん」
といいましたが、頑なに首を振って座り続けていました。