偶然の祝福

小川洋子さんの「偶然の祝福」は面白かったです。


今まで小川さんが書かれた作品の断片が、ジクソーパズルのように組み込まれて、一冊の本が出来上がっています。


物語の語り手である「わたし」は小説家で、ちょっと複雑な家庭で育った経歴があります。
住み込みのお手伝いさんがいるような上流家庭であるものの、父親には外に妻とは別の女性がいるし、母親はクリスチャンで、かなり厳格に子供たちを育てています。そんな両親に反発した「わたし」は家を出て一人暮らしをしています。
そんな折に、唯一「わたし」の理解者であった大学生の弟がチンピラの喧嘩に巻き込まれて刺殺されてしまう、というところから話が始まります。



ものすごく繊細で、しかし緻密に計算されたプロットがあって、イメージとしては将棋くずしみたいな感じ。(将棋の駒を積み上げて、そこから他の駒を崩さないで一つずつ抜き取るゲーム)ひとつでも矛盾した箇所があったら、全部うそ臭くなってしまうでしょう。

「あ、これは『貴婦人〜』の主人公のことだ。あ〜これは『ブラフマン〜』のイメージだな。ここは『ミーナ〜』と似ている」
といった具合に、ポツポツといろんな話をパッチワークして一つの話になっているのです。信じられます?そのくせちゃんと『偶然の祝福』の物語としての完成度も凄く高いのです。
だから、小川さんの作品を初めて読むという方でも、十分に堪能できるのです。



小川さんの作品にしては珍しく、男女が「愛し合う」という表現が出てきますが、これが、また実に清潔で上品な描かれ方をしているのよね。
是非一度読んでいただきたい本です。