東京タワー

本屋大賞をとり映画化されテレビドラマも作られた作品だというのに、なかなか縁がなくて読まずにいました。
リリー・フランキー氏の『東京タワー』


もしもまだ知らないという方がおられたら、是非読むことをお薦めします。
本屋大賞」をとる作品は、やっぱりなんと言っても読みやすい。
東京タワーに関しては、物語の進みが時系列に沿っているので、すごく自然です。
ときどき、テレビ化されるのを意識しているのか、場面の切り変わりが激しかったり回想シーンが多かったりするのがありますが、読む側としては川の流れのように時間が流れていく方パターンのほうが、読んでいても無理がない気がします。


「東京タワー」はまさしく川の流れのような作品です。
リリーさんと、私ナンチャッテは同世代なので(+−5歳とお見受けしました)、物語にでてくる小道具や風景のイメージが、自分の幼少時代と被るところもあって、とても懐かしい思いでした。


とにかく「おかん」がいい。
インドの貧しい人々を救い続けたマザー・テレサさんを聖母マリア様にたとえるなら、「おかん」はダメなわが子を支え続けた生母マリアという感じかな。
「おかん」は息子には甘いんです。



中高時代の主人公は、相当なワルだったと想像できます。
とある中学で非常勤をしていた頃、相当なワルというより、将来は極悪非道人になるんじゃないかと心配されていた生徒のことを思い出しました。
その生徒の家庭も複雑だったようだけど、東京タワーの主人公の家庭と大きく違ったのは、暴力的な父との父子家庭だったということ。
子どもは、幼い頃に暴力的な環境で育つと、暴力的な子どもに育つのかなあ。
東京タワーの主人公は、甘甘のおかんに育てられて、中学高校時代にだいぶ宜しくなかったようですが、その後のビンボー時代を経て次第に立ち直っていきます。


悲しいのが、子どもが成長して成功していくに従って「おかん」が小さく萎んでいってしまうというところ。
小説の中で、「おかん」が自分の中のなにかをすり減らした分、主人公が成長している、というような描写がありました。
そんなふうに思ってもらえるだけで「おかん冥利」につきるよね。


涙をさそう内容ですが、決して後味の悪い涙じゃないです。