私なんか、雇われているだけですから

ナンチャッテ屋のオーナーは、齢74歳のナンチャッテの母です。
オーナーといっても、この30数年間は、実質営業していなかったような店なので、文字通りの名ばかりです。
母は当初、私と妹の心機一転リニューアル敢行に、今一つ乗り気でなくて、なんだかんだイチャモンを言い続けてきた人です。しかし、この半年で、ちょこっと成果が表れだしたところで、少し前向きになってきたようです。
ご近所さんや、集金関係でうちを訪れる人、、お客さん、知人友人から、
「お店がきれいになって、前を通るのが楽しみになった」
などと言われて非常に気をよくしているからです。
すると母は、少し困ったような口調で、
「もう今では、娘たちにいろいろ監視されちゃって、私なんか、ただ雇われているだけですよ」
などと言うのです。

監視という言葉に語弊はありますが、その言葉の前半は正しいかもしれません。
しかーし、後半はうそです。
なぜなら、爪の先を30年分の埃で真っ黒にながら水洗いをして、倉庫で全身蚊に食われながら在庫の積み直しをし、軽トラック数杯分の粗大ごみを搬出し、毎日店を掃除しているのは、私と妹ですが、二人ともびた一文たりとも労働報酬を得ていないからです。
つまり、微々たるとはいえ、売り上げは100パーセント母のものなのです。


母から、「私なんか娘たちに雇われているだけですよ」と聞いた人は、
「まっ、こんな年寄りをこき使って、なんて血も涙もない鬼のような娘たちだろう。そういえば、特に上の娘さんにの眼光の鋭いこと!ぶるる・・・こっわっ。こんな子がうちの嫁じゃなくてよかったわ」
と思うでしょう。
いや、もしも私が、何の情報もなく、そういう話を聞いたら、絶対にそういう風に思います。


私と妹が、母とお客さんの間で必ず交わされる、定型文のような、そのフレーズをやめるように再三申し立てているのですが、
「あんたたちに監視されているのは本当じゃん」
と、一向に改める気配なし。
気の毒な70過ぎの老婆を、情け容赦なくこき使う阿漕な娘二人(しかも、そのうちの一人は眼光が鋭い)。
ナンチャッテ屋は、そんな店員がいるお店です。